寄稿・ビワ温灸が効かない!?
神奈川県鎌倉市 ホリス鍼灸治療院 茶鍋浩 院長
ビワ温灸にも得意とする症状と不得手とする症状がありますが、時には本来得意とするはずの症状でも効果が出ないケースがあります。そういった場合、ビワ温灸が効かない事自体が重大なシグナルという可能性があるのですが、その原因まで追跡することは制約が多く、実際には非常に困難です。今回、ホリス鍼灸治療院の茶鍋院長が、ビワ温灸が得意とするはずの疼痛の緩和に効果がなかったことから、かかりつけの整形外科医による診断以外の原因があると判断し、実際に別の医療機関で深刻な症状を確認するに至った貴重な事例について寄稿してくださいました。
「ビワ温灸が効かない」ことにも重要な意味があるという実例として紹介させていただきます。
私は鍼灸治療院を開設している鍼灸師で、整形外科的な疼痛除去やガン・難病などの緩和ケアを中心に治療を行っています。
今回ご紹介するの方は、意外にもビワ温灸の効果が発揮されなかった方です。
多くの疼痛に対してビワ温灸は効き目があり、鍼治療を併用すると効果は更に高いのですが、今回は、どういうわけか奏功しませんでした。
この方は７０代前半の女性で、ご夫婦で飲食店を経営されています。店内では接客で立ち仕事が中心で、毎日のように車で出前もしていました。私は出張中の昼食で何度か伺っており、長年の腰痛が最近ひどくなってきたことを聞いていました。
近所の整形外科を何度か受診しており、腰椎すべり症と診断されていました。喘息があるため湿布薬や弱い薬（アセトアミノフェン）しか処方されず、持病として長年お付き合いをしてきたそうです。
動けないほどの痛み
今回は痛みが強くて動けなくなり、往診の依頼が来ました。年末年始に多忙で無理をして、正月明けに寝たきりで動けなくなったというのです。徒手検査では、右足裏のしびれ、足趾の力が弱い・足関節の動きが悪いという所見あるため、すべり症というよりもヘルニアの可能性を強く疑いました。
整形外科を受診して詳しい検査を受けてほしいのですが、立ち上がって歩くことができません。まずは、受診できるレベルまで痛みを軽減することが目標でした。
初回の施術は上を向くことができず、横向きの姿勢のままで、上背部〜腰部〜両下肢後面〜足底まで、また、腹部〜両下肢前面にわたり（軽く皮膚が赤みをさすまで）１時間ほど施術しましたが、気持ちが良いとは仰るものの痛みには変わりありません。
２回目は５日後でした。痛みは変わらず、前回の施術に加えてスポーツテーピングを行いましたが、起き上がることさえ困難でした。
３回目は初回から１週間経っていましたが、痛みは変わっていません。実はこの前日、夜間に痛みが増強して救急車で市内の総合病院に搬送されていました。
夜間の救急受診のためかレントゲン検査しか受けられず、腰椎すべり症との診断で、腰痛では入院できないと言われ、今までの処方薬を飲むようにとの指示でした。ご主人の介助で激痛に耐えながらタクシーで帰宅したそうです。
これまでの腰痛歴、今回の２回の施術内容と症状の様子から、腰椎すべり症以外にも何かが起きているのではないかという思いが拭えませんでした。
そしてご本人・ご家族に対し、�，海里泙泙任歪砲澆�軽減する可能性がかなり低いこと、�△任�るだけ早くレントゲン以外の詳しい検査が必要と思われること（私は放射線技師として数十年の臨床経験があります）、�ａ崢砲離灰鵐肇蹇璽襪里燭瓩縫屮蹈奪�注射やペインクリニックの必要性があるかもしれないと説明しました。
痛みが強くて何度も通院することが困難な状況でしたので、知り合いの整形外科医（クリニック理事長）に連絡し、初診時にＭＲＩ検査とブロック注射の予約を取りました。
通常の手順では、初診時にＭＲＩ検査を実施することはできませんが、旧知の医師で普段から患者の行き来があることから快諾してくださいました。三つの市を跨いでの受診なので、例外的に予約診療で対応してくださいました。
初診当日のレントゲン写真では、右大腿骨内側骨折の疑い、右股関節の剥離骨折の疑いで、ブロック注射は行わずにコルセットを装着して経過を見ることになりました。
喘息の既往があるため鎮痛剤はアセトアルミノフェン（一般名：カロナール）が処方され、１週間後にＭＲＩ検査の結果が出るので再受診（家族だけ）という予定でした。
緊急入院、そして手術
しかし、２日後、担当医から私に緊急受診するようにと連絡が入りました。病名は、１、腎盂腎炎 ２、脊椎炎 ３、腸腰筋膿腫 とのことでした。
受診同行した際にＭＲＩの画像を見ると、左腎盂より膿腫（ウミ）が脊椎〜腸腰筋〜右股関節まで拡がっていました（写真をクリックすると拡大します）。
これだけ広範囲に膿腫が拡がっていれば発熱があるはずですが、痛み止めとしてアセトアルミノフェンを１日３回服用しているので熱は出ませんでした。
脊椎の手術の可能性が高いとのことなので、担当医の出身大学の整形外科への紹介をお願いしました。
紹介先の大学病院では、膿腫除去を行いながら崩れかけている脊椎をビス固定するための手術を行い、約３週間入院しました。この時点で腰痛はほぼ消失していました。
さらに脊椎専門病院へ転院し、自身の骨盤の骨を脊椎に移植する手術のため約３週間入院。更にリハビリ専門病院に２週間ほど入院し、自分の足で歩けるようになって退院しました。
ご本人が腰痛で寝込んでいた時、休業中のご主人は「お店をたたんで介護の生活をすることにする」と沈痛な面持ちで話されました。しかしご本人が短期のうちにどんどん回復して、腰痛もなくリハビリに励んでいることがわかると、アルバイトさんを頼んでお店を開けてしまいました。お客さんから再開の要望が押し寄せていたからです。
それを知ったご本人もリハビリに熱が入り、お店をたたむ話はあっという間に立ち消えです。退院後は長年悩まされていた腰痛がなくなり、今では自ら車を運転して出前をこなし、お店では歩き回って接客しておられます。まだまだお店を続けるようでなりよりです。
今回はビワ温灸では疼痛除去が出来なかった事例を紹介しました。私自身もビワ温灸も鍼も効かないことなどあるのか？という考えがあり、あと数回の施術を試みたい感覚にもなりました。しかし待てよ、ビワ温灸や鍼が効かないほどのことがおきているのか？という考えもありました。施術しても改善しない痛みや不快な症状が続くとき、医療機関や施術者を変更して、違う視点で診てもらうことも必要です。
また処方薬によっては、今回のように熱が出ないこともあります。実際にコロナウィルスの感染時に解熱目的で使われていた薬でもあります。また腰椎すべり症という既存の診断名にとらわれてしまい、初回時に他の病気を考慮しなかったことは私の大いに反省すべき点だと思います。
最後になりましたが、今回画像を提供してくださった整形外科の理事長先生、並びに記事を書くことを承諾してくださった患者様とご家族様に心より感謝とお礼をを申し上げます。ありがとうございました。
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神奈川県鎌倉市台３−７−８ テラス湘南Ｂ
ＴＥＬ：０８０−２０３２−０８５３
◎ホリス鍼灸治療院に関する体験談
（ 『ビワと健康』 ２０２５年１０月１５日号）
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